「両片想い 僕らのロード」番外SS

両片想い 僕らのロード (Illustrator陵 クミコ様)

両片想い 僕らのロード (幻冬舎ルチル文庫)

ふたりの初体験のシーン。
作中では話の流れの都合上、詳細を入れられなかった部分です。

あれは兼行がフランスに旅立つ一週間ほど前のことだ。出発準備で忙しいのに、兼行はそのあいだを縫ってアマギサイクルにやってきた。
「どしたの、おまえ……!?」
 約束も前触れもなく、突然現れた兼行に驚いて、天城はともかくと自分の部屋に彼をあげた。忙しい最中だからと、様子見程度の短いメールは毎日送っていたけれど、まさか本人がいきなり来るとはまったく思っていなかったのだ。
 本当は会いたくて、でも遠慮して言い出せなかった天城にすれば、この訪問は意外だがうれしくて、でもそれ以上になんだかひどく落ち着かず、変にそわそわしてしまう。
「急に押しかけて、悪かった」
 自室の真ん中に突っ立っている兼行をひとまず座らせ、飲み物をと言いかけたら、そんなふうにあやまられた。
「あ。俺は、ぜんぜん……」
 手を振る仕草を交えた声は、あきらかにうわずっていて、なおさら焦りがつのってくる。
「ずっとおまえに会いたかった、し……」
 惑乱したまま本音を落とせば、長い腕が伸びてきて、強い力で抱き締められた。
「俺も、天城に会いたかった……!」
 苦しげな男の声に、天城の胸がきりきり痛みを生じさせる。いまはこんなに近くにいるのに、あとほんの数日で、この男は自分の手の届かない場所に行く。
「兼行……っ」
 それがつらくて、呻くような声を洩らせば、さらに抱擁はきつくなり、ごく近くから「好きだ」と低く告げられた。
「おっ、俺も……っ」
 兼行が大好きだとまなざしで伝えたら、相手の目がさらに近づき、唇をふさがれた。
「ん、ん……っ」
 これまでにキスをしたことはある。実を言えば触り合いっこも。三年生のインターハイ終了後、いまのように兼行が天城の部屋に遊びに来たとき、好きだと告げられ、口づけされたのが最初だった。
「ん……兼行っ……俺……っ」
 あれからキスは何度もしたから、あのときよりも兼行は格段うまくなっている。舌が絡まるキスをしてから、赤く染まった頬で洩らせば、彼はわかっているよというふうにうなずいた。
「寂しいのは、俺も一緒だ」
「お、俺っ、駄目なんだっ……よかったって、思ってるのに……祝ってあげなくちゃ、いけないのに……っ」
 兼行はかねてから望んだとおりに異国の地で新しい一歩を踏み出す。自分の可能性を信じ、もっと強くなろうとして、厳しいフィールドにおのれを叩きこもうとしている。そんな兼行を励ますのは当然で、自分の不安な想いなど打ち明けるのはもってのほかだ。
 なのにいざ、別れのときを目前にしてしまうと、頭のなかがぐちゃぐちゃになってしまって、いけないとわかっているのにすがりつく目をしてしまう。
「ごめ……」
「そうじゃない! 俺、俺がいけないんだ」
 あやまりかけた言葉を制して、天城は叫ぶ。
「あ、明日になったらちゃんとするからっ」
 これまで必死にこらえていたのに、不意打ちで現れた兼行に抱き締められて、キスされれば、ぐらぐらに動揺していた自分がもう隠せなくなる。それでも、明日はいままでどおりの態度になるから、いまだけは泣きそうになっているのを許してほしいと訴えた。すると、兼行が目の色を変え、
「好きだ、天城。おまえが好きだ」
 息をするのも苦しいくらいに抱きすくめられ、耳元に熱い吐息を吹きかけられる。
 天城はぎゅっと広い背中にしがみつき、声も出せずにうなずいた。
(俺も好き。兼行が好き)
 二年生のインハイで優勝したとき『勝った、ぞ』と不器用な調子で自分にだけ言ってくれた、この男がとても愛しい。三年間、いつでも身近にいてくれて、天城の子供っぽい願いを少しも笑わずに同意してくれた兼行が大好きだ。
(ずっとずっと、おまえと一緒に走っていたい)
 その気持ちはいまも変わらず、だからこんなにせつなくて心臓が張り裂けそうだ。
「あ、んんっ」
 兼行が無骨な仕草で天城の身体をまさぐってくる。がむしゃらな動きなのになぜか感じて、気がつけばベッドに押し倒されていた。
「か、兼行……っ!?」
 服をむしり取るように脱がされて、いきなり身体の中心を掴まれる。
 驚いて、閉じた膝でガードしようとしたけれど、彼はそれを許さなかった。
「ごめん。ちょっとやめられない」
 言うなり、兼行は天城の膝頭をそれぞれ掴み、右と左にひらかせる。
 そうして、天城の脚のあいだに自分の身体を割りこませると、上からのしかかってきた。
「ちょ、おまえ……っ!?」
 これまで身体を触られたことはあるが、こんなふうに乱暴にされるのは初めてで、おぼえずあせった声が飛び出す。すると、唇をキスで塞がれ、男の手で股間をめちゃくちゃにいじられた。
「ん、むっ……ん、く……っ」
 痛くて、苦しくて、身体をくねらせているうちに、軸を扱かれ、胸の上を当てた手のひらで摩られる。まったく余裕の感じられない男の手つきと、耳元で聞こえているハッハッという獣のような息遣いが、兼行の闇雲な欲望を天城にいやおうなく知らしめる。
(も。めちゃくちゃだ……)
 自分の身体に食らいつくみたいにされて、正直痛いし、怖いのに……なぜかほっとするおのれがいる。
(兼行は、こんなにも……)
 自分のことが欲しいのだ。ふたりの別れをつらいと感じ、理性を飛ばしてしまうくらいに、離れがたく思っている。
「あっ、ふぁっ……か、兼行っ……!」
 彼が天城の軸をしきりに擦りながら、もういっぽうの手で、後ろの窄まりに触れてきた。
 前のときは天城がびくっと震えたら、そのまま手を離してくれた。なのにいまはそこに指を触れさせたまま、何度も入り口を押してくる。
(挿入れたいんだ)
 天城の身体は女ではないけれど、男の本能が無意識に入れる場所を探すのだろうか?
(怖い……でも)
 たとえ男同士でも、繋がり合えるのならそうしたい。
 兼行と触れ合えるのはもう数日しか残っていなくて、だからたとえ怖くても彼のことが欲しかった。
「な、兼行……そこ……入れて」
 震える声で告げてから、兼行にしがみつく。
「ど、どんなふうにしてもいい、からっ」
 自分のほうから誘ったけれど、やっぱりためらいは残っていて、けれどもそれを振りきるように、彼の耳にささやいた。
「天城……っ!」
 兼行が感極まったみたいに叫び、ぐっと天城を抱き返すと、幾度も頭の後ろを撫でる。
「天城、天城っ……」
 おまえのことが好き好きででたまらないと、強く教えてくる男の仕草に、残っていたためらいも消えてしまった。
「いいのか、ほんとに? ぜんぶ、くれるか?」
「ん、やるよ……おまえにやる」
 そしてそのあと、天城は兼行のものになった。
 正直、事の最中は、必死だし、苦しいしで、詳細な過程はとてもおぼえていられなかったが、幸い怪我をすることもなく、なんとか行為が完遂できた。
 想い出せば懐かしい気もしてくるが、あれはまだ数カ月ほど前の記憶だ。

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